【作品解説】丸尾末広「パノラマ島奇譚」

パノラマ島奇譚

視覚化不可能といわれた乱歩の名作に挑戦!


概要


幻想的で耽美なイメージの連続


「パノラマ島綺譚」は、江戸川乱歩の大傑作「パノラマ島綺譚」を丸尾末広がマンガ化した作品。2009年第13回手塚治虫文化賞「新生賞」受賞作品。猟奇的で残酷な描写が丸尾末広の特徴だが、本作では猟奇的な描写はかなり抑えられており、幻想的で美しい作風になっている。

 

「ユリイカ 2015年8月号 江戸川乱歩」の丸尾インタビューによれば「マンガ家になったころからとにかく「パノラマ島奇譚」をマンガに描きたいと思っていた」とのこと。最初の頃はポルノを描いていて、いつか描きたいとは思っていたけど、単純に描く機会が今までなかったのだという。

 

人見広介の自殺場所の差異や菰田源三郎の差歯と人見広介の歯を入れ替えるなど、細かい部分ではけっこうアレンジされているが、大筋は原作に忠実。アレンジしている理由については、おそらく、乱歩原作版は細部のリアリティがなく適当な描写が多いため、丸尾がより現実的、具体的な描写に調整したと思われる。

 

また、ミレイの「オフィーリア」、ベックリン「死の島」、アペニンの巨人、西洋芸術イメージの引用もふんだんにされている。パノラマ島全体はヒエロニムス・ボスの「悦楽の園」の雰囲気があるので西洋美術ファンにもおすすめ。 

徹底した趣味嗜好


 もともと、原作の江戸川乱歩自身がエドガー・アラン・ポーの「アルンハイムの地所」に影響を受けて作った作品(というかネタ元)なわけですが、丸尾先生もまた乱歩の「引用の伝統」を自覚的に継承しているようにおもえ、作品頭にはエドガー・アラン・ポーの肖像画が大きく登場する。

 

 

「これ・・・どっかで読んだような」「あなたのは自分の趣味嗜好にはしり過ぎるのだよ。もっと自分の身の周りのことを書いてみては」という編集者の人見への助言(原作にはない)から、丸尾先生自身の作風「自分の事はネタにしない。自分の事を語ることはない」というアイデンティティを主張する近代文学の反発心が見られる。

 

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