【作品解説】丸尾末広「瓶詰の地獄」

瓶詰の地獄

夢野久作の短編を漫画化


丸尾末広『瓶詰の地獄』
丸尾末広『瓶詰の地獄』

概要


『瓶詰の地獄』は、丸尾末広が夢野久作の短編『瓶詰の地獄』を漫画化いた作品。海難事故により無人島に漂着した兄妹の不幸な物語。

 

2人が漂着した無人島は、幸いなことに自然が豊かで食べ物にも恵まれたパラダイスのような環境だった。そんな天国のような環境は兄妹の身体が成長するにつれて逆に地獄の苦しみを生み出すようになる。

 

漂着時に所持していた聖書を唯一のこの世の情報源として日頃から読み込んでいた2人は、近親相姦に対する罪意識に悩まされるようになるのである。

 

原作では、近親相姦の罪をほのめかす程度で、具体的な2人の性に関する描写は記載されていない。また丸尾版でも原作に忠実で具体的な2人の性に関する描写はされていない。しかし、性を抑圧した兄妹の地獄のような苦しみをシュルレアリスム風にビジュアル表現しているのが丸尾版の最大の見どころである。

 

たとえば、兄の市川太郎の欲情とその性的抑圧が蛇やカラスなどのイメージに置き換えられる。もまた、妹のアヤ子の欲情とその抑圧がカブトガニやタコに置き換えられている。

 

そして、無人島の美しい砂浜の風景はパラダイスから骸骨へと変容する。サルバドール・ダリのフィゲラスの風景から着想を得て制作されたダブル・イメージ作品を彷彿させ、また丸尾自身が意識的にダリ的手法を利用していることを表明している気がする。