アンティファ運動 / ANTIFA movement
アメリカの極左過激派政治活動グループの抗議運動
概要
アンティファ(ANTIFA)運動は、アメリカの極左・反ファシスト主義「アンティファ」による過激派政治活動運動。彼らは政策改革ではなく暴力や器物破損を含む直接行動で目的を達成することを目的とした自律的な国際活動運動。
ドイツを起源とするグループで、統一された組織ではなく、複数の自律的なグループや個人から構成される階層性やリーダシップのない21世紀型のデモ運動である。
活動家たちは、デジタル・アクティビズム、物的損害や物理的暴力、ファシスト、アメリカにおいては特に人種差別主義者、または極右と認定された人々に対する嫌がらせなど、さまざまな抗議戦術に従事している。活動地域によって抗議対象はやや変化する。
運動に参加している個人たちは、反資本主義的な見解を持ち、無政府主義(特に無政府共産主義)、共産主義、マルクス主義、社会主義、社会民主主義などのイデオロギーの範囲を支援する傾向がある。自由民主主義による選挙政治を否定している。
アンティファ活動家のメンバー数を正確にはわからないが、運動は2016年のドナルド・トランプの選挙以来拡大しており、約200のグループがアメリカに存在していると言われている。
アンティファ活動家は、当局からの監視を逃れ、参加者の間に平等感と連帯感を生み出すために、黒ずくめの服を着て顔を隠すという「ブラック・ブロック戦術」をよく使っている。
重要ポイント
- 暴力を含む直接行動で目的を達成することを目的としている
- 反資本主義、無政府主義、共産主義、マルクス主義
- 複数の自律的なグループや個人からなる21世紀型デモ運動
語源
英語のantifa(またはANTIFA)はドイツ語の借用語で、antifaschistisch(「反ファシスト」)と1932年から1933年まで存在していたドイツ共産党に加盟していた組織「Antifaschistische Aktion」の名称を短縮したものである。
名誉毀損防止同盟は、「antifa」というラベルは「ファシストを敵とみなし積極的に物理的破壊を行おうとする人々」に限定すべきであり、誤ってすべての反ファシスト系抗議デモ参加者に適用するべきではないと指摘している。
イデオロギー
アンティファ運動に参加している個人は、反資本主義や反政府の思想を持っている傾向があり、さまざまな左翼イデオロギーを支持している。
社会民主主義者やその他の左翼のメンバーもいるが、参加者の大部分は社会主義者、無政府主義者、共産主義者であり、自分たちを革命家と表現している。
アンティファ運動は汎左翼主義的で非階層的であり、右翼過激主義と白人至上主義への反対と中央集権的国家への反対によって結束している。 反ファシスト活動家はリベラル派と同様に反ファシスト保守派を拒否している。
アンティファ運動は、主流の自由民主主義による選挙政治を避けて、直接行動を支持している。自由主義に反対する運動にもかかわらずアンティファのメンバーはリベラルを支持しており、リベラルのシンパの支持を得ようとしている。
ダートマス大学の歴史家マーク・ブレイ氏によれば「反ファシストの組織化の大部分は非暴力的である。しかし、白人至上主義者の暴力から物理的に身を守り、ファシストの組織化活動を致命的なものになる前に先制的に抑え込もうとする彼らの行動は、リベラルな反レイシストとは一線を画している」という。
運動構造
アンティファは、統一された組織ではなく、複数の自律的なグループや個人から構成される階層性やリーダシップのない21世紀型のデモ運動である。香港の文宣のような形態である。
活動家は通常、ソーシャルメディアやウェブサイトを介して抗議行動を組織する。活動家の中には、P2Pネットワークを構築したり、Signalのような暗号化されたテキストサービスを使用したりしている人もいる。
Salon.comのChauncey Devega氏は、アンティファは本質的には人の集団ではなく、組織化戦略であると表現した。そのため「運動(movemnet)」という言葉がよく使われる。2016年の大統領選挙以降、アンティファ運動は拡大し、2017年8月の時点で、規模や活動レベルが異なる約200のグループが存在していた。
歴史
イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニが国民ファシスト党の下で権力を握るようになった1920年代半ばには、イタリア国内だけでなくアメリカなどの国でも反ファシスト運動が台頭してきた。
米国における反ファシストの指導者の多くは、イタリア出身のサンディカリスト(労働組合主義者)、無政府主義者、社会主義者の移民で、労働者の組織化と軍国主義の経験を持つ者たちであった。
思想的には、アメリカのアンティファは、1930年代の反ナチス活動家の後継者と自認している。第二次世界大戦時代のファシスト独裁政権に反対するために組織されたヨーロッパの活動家グループは、1970年代から1980年代にかけて白人至上主義とスキンヘッドに反対するために再登場し、最終的にはアメリカにサブカルチャーとして広がっていった。(このあたりは近代西洋サブカルチャーの歴史なども参照)。
第二次世界大戦後も、近代的なアンティファ運動が発展する前も、ファシスト要素との暴力的な対立は散発的に続いていた。
現代のアンチファ運動は、1970~80年代の白人勢力スキンヘッドによるイギリスのパンク・シーンへの介入への反対と、ベルリンの壁崩壊後のドイツでのネオナチズムの台頭にまで遡ることができる。ドイツでは、アナーキストやパンクファンを含む若い左翼が、街頭での反ファシズムの実践を一新した。
コラムニストのピーター・ビーナートは、「80年代後半には、アメリカの左翼パンク・ファンが彼らの後追いを始めたが、彼らは当初、「反レイシスト・アクション(ARA)」と呼んでいた。理由はアメリカにおいてはファシズムとの戦いよりも人種差別との戦いの方が身近であるだろうという理論に基づいていたからだ」と書いている。
『アンティファ:反ファシスト・ハンドブック』の著者であり、ダートマス大学の歴史家であるマーク・ブレイは、ARAがアメリカとカナダにおける近代アメリカのアンティファ・グループの先駆けであると評価している。
1980年代後半から1990年代にかけて、ARAの活動家たちは、クランスマンやネオナチ、その他の白人至上主義者のグループの勧誘を防ぐために、人気パンク・ロックやスキンヘッドのバンドたちのツアーに同行していた。彼らのモットーは「We go where they go」で、コンサートで極右活動家と対峙し、公共の場から積極的に彼らのチラシやその他資料を撤去していた。
2002年には、白人至上主義グループ「創造主世界教会」の代表であるマシュー・F・ヘイル氏のペンシルバニア州での演説をARAが妨害し、喧嘩になり25人が逮捕された。
米国で最も早いアンチティグループの1つは、2007年にオレゴン州ポートランドで結成されたローズシティ・アンティファである。米国の他のアンティファ・グループの系統にあるものは他にもあり、例えばミネソタ州ミネアポリスでは、1987年にネオナチグループと直接戦うことを意図して「バルディーズ」と呼ばれるグループが結成された。
活動
破壊的活動
カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校の「ヘイトと過激派研究センター」のブライアン・レビン所長によると、アンティファ活動家が暴力的な行動に参加する必要性を感じているのは、「エリートが政府やメディアを支配していると信じているからだ。だから、彼らは人種差別主義者とみなす人々に対して真正面から声明を出す必要がある」という。
マーク・ブレイは、「白人至上主義の前進を阻止するために警察や国家に頼ることを拒否する」と書いている。その代わりに、シャーロッツビル事件で目撃したように、ファシズムへの民衆の反対を提唱している」と書いている。
直接行動という考えはアンティファ運動の中心的なものである。元アンティファ主催者のスコット・クロウはインタビュアーに語った。
「アンチファの考えは彼らが行きたいところへ行くということだ。ヘイトスピーチは言論の自由ではない。自分の発言や行動で人々を危険にさらすなら、言論の権利はない。だから私たちは紛争を起こしに行き、彼らが行くところを封鎖しているのです。なぜなら、ナチスやファシストは口先だけではダメだと思っているからだ」
アナーキストのウェブサイト「It's Going Down」に掲載された手引書では、「ただ戦いたいだけの人々」が参加することに警告を発している。さらに、「ファシストと物理的に対峙し、防御することは、反ファシスト活動の必要な部分であるが、それだけではないし、必ずしも最も重要な部分でもない」と注意を促している。
ビーナート氏によると、アンティファ活動家は「白人至上主義者を公然と特定し、仕事を解雇させたり、アパートから追い出したりする」とし、「力づくでも含めて白人至上主義者の集会を混乱させる」という。
ワシントン・ポスト紙によれば、「アンティファの戦術の1つは"プラットフォーム化させない"こと。言い換えれば、ターゲットが公の場で発言する機会を阻むこと、彼らのイベントを妨害し、彼らのプロパガンダを潰すこと、そして、アンティファの活動家が必要と判断した場合、彼らの行動を抑止するために暴力行為も行うことが含まれている」という。
実際、アンティファ活動家がシャーロッツビルで白人至上主義者に対してクラブや染色液を使って物的損害を与えている。
2018年6月、ネブラスカ州のアンティファグループは、LinkedInのプロフィールから1595人の米国移民税関執行局(ICE)職員の名前と写真を引用してリスト化して公開した。
平和的活動
破壊的活動とは別に、アンティファ活動家たちはハリケーン被害の際は、災害対応などの相互扶助活動を行っている。
『The Nation』のナターシャ・レナード氏によれな、2017年1月の時点で、アンティファグループは異なる宗派間のグループや教会と協力して「難民や移民に居住場所を提供するという40年前からの慣習を継続・拡大してきたい新しいサンクチュアリ運動を生み出すため」に活動していたという。
サンクチュアリ運動とは1980年代初頭に始まった米国内での宗教的および政治的キャンペーンであり、内戦から逃れた中央アメリカ人の難民に安全な避難所を提供していた。
アンティファ活動家はまた、「極右指導者の手法や動き」を監視・追跡するための調査を行い、反ファシスト活動に関する会議やワークショップを開催したり、ブックフェアや映画祭にブースを出したりなど、「持続可能で平和的なコミュニティを育てる」方法を提唱している。
話題になった活動
アンティファは、ブラック・ブロックの活動家とともに、2016年のドナルド・トランプの大統領当選に抗議した人々の中に含まれていた。
2020年5月30日、ウィリアム・バー米司法長官は、5日前にミネアポリスの警察官が逮捕中にアフリカ系アメリカ人男性ジョージ・フロイド氏を殺害したことをめぐる全国的な暴力抗議行動について、「アンティファのような戦術を用いる無政府主義的で極左の過激派グループ」を非難した。
5月31日、バー氏は次のように述べている。「アンチファや他の類似グループによって扇動され実行された暴力は 国内のテロリズムであり それに応じて処理されるだろう」
5月30日、トランプ大統領はTwitterで「ANTIFAと急進的左翼のせいだ。他人のせいにするな!」とツイートし、翌日州兵を祝福し、「ANTIFAが主導した無政府主義者などは、すぐに締め出した」と述べた。トランプはさらに、「アメリカ合衆国はANTIFAをテロ組織に指定するだろう」と述べている。
・2017年2月にバークレーで行われたオルタナ右翼のミロ・ヤンノプロスに対する抗議行動にも参加しており、そこで彼らはマスコミから注目を集め、マスコミは彼らが火炎瓶を投げて窓を叩き割り、10万ドル相当の損害を与えたと報じている。
・2017年4月、「社会主義者/環境保護主義者の直接行動連盟」といった反ファシスト・アナーキスト系の2つのグループが、オレゴン州ポートランドで開催される予定の「第82回ローズ通りパレード」に、オレゴン共和党が参加すると聞いて、パレードを混乱させると脅迫した。
パレードの主催者はまた、匿名のメールを受け取り、次のように述べている。
「あなたはダウンタウンにどれだけの力があるかを見てきただろう、警察は道路を閉鎖して私たちを制止することはできないので、賢明な決断を検討してください」
両団体はメールとの関係を否定している。パレードは最終的に主催者側が安全面を考慮して中止した。
・2017年6月15日、一部のアンティファグループは、エバーグリーン州立大学の抗議者たちと一緒に、極右グループ「パトリオット・プレイヤ」のイベントに反対するために参加した。パトリオット・プレイヤは論争の中心人物となった生物学のブレット・ワインスタイン教授を支援していた。ブレット・ワインスタイン大学のイベントの1つの変更を批判した。
USAトゥデイは、「コミュニティ愛」の看板を掲げた平和的なアンティファ活動家に加えて、1人が極右活動家ジョーイ・ギブソンの自動車を傷つけ、もう1人がナイフを持っているところを目撃された後、パトリオット・プレイヤの活動家に地面に叩きつけられたと報じている。
・2017年8月にバージニア州シャーロッツビルで行われた極右集会「2017年のユナイト・ザ・ライト・ラリー」で、アンティファたちは白人至上主義者に対して、ゴルフクラブや染料液で攻撃をくわえたという。
ジャーナリストのアデル・スタンは、集会でアンティファにインタビューし、彼らがが持っていた棒は、「右翼はチンピラ部隊」であるという事実への正当な対抗措置だと述べている。
■参考文献
・https://en.wikipedia.org/wiki/Antifa_(United_States)、2020年6月1日アクセス