蛭子能収インタビュー1
サービス業こそが蛭子芸術である
(出典元:ガロ1993年 4月号)
編集部:蛭子さんは漫画のなかでよく"芸術"という言葉を使っていますが、そのへんのことをちょっと話してください。
蛭子:(黙々とカレーを食べ続けてる)。
編集部:早くっ!
蛭子:食いながら話しにくいねなんつってやら、ハハハ。あのね、芸術についてはそんなに考えてないの、ハッキリ言って。ただ言葉の便宜上でそう言ってるだけなのね。
編集部:それは昔から?
蛭子:だいたい俺は映画を観るときでも、芸術とかね、そういうふうに区別して考えない。面白いか面白くないかだけしか考えないの。だから漫画もさ、人が読んでて面白く思うかな、っていうことだけを考えていたいの、ねっ。
編集部:毎回?
蛭子:そうだよ。自分が面白いと思わないと人も面白くないんじゃないかなって思って(笑)。
編集部:んまぁ、真面目なこというようになったのね、もう(笑)
蛭子:芸術ってね、そうやって高尚なイメージをつけるのは好きじゃないんですよ。だからほら、クマさん(篠原勝之)がカタカナで"ゲージツ"って書くでしょ、ああいうのが好きなの。
編集部:でも蛭子さんの漫画では、いつも漢字でかかれているよ。
蛭子:ブッ、だからね、俺が描いた場合はみんな冗談にとらえてくれていいんですよ(笑)。
編集部:じゃ、蛭子さんのなかでは芸術もタワシも同じなんだ。
蛭子:そっ、そうそう。
編集部:そう。これでよくわかりました。
蛭子:よくわかりましたって、ホントかなぁ(笑)
編集部:でも蛭子さん、ちり紙交換やりながら漫画描いていたころは、ホントすごい作品が多かったね。会社にいっても文句もいえずにさ、ただ黙々と働いていたころさ(笑)。
蛭子:あんころはストーリーをちゃんと考えてましたから(笑)。だいたい一ヶ月くらい寝かしてさ。ちゃんと結末まで考えていたからね。でも今は忙しいから(笑)。
編集部:はぁ、そうみたいですねぇ(笑)。
蛭子:でも、今もね、一人でも多くの人に『面白いな』と思わせるために描いているんですよ、へへへ。でも思わなかったりしてね。俺の場合そう思う対象の人がちょっと少ないんですよ。
編集部:でもそれも最近だんだん少なくなって来てるんじゃないの?テレビで蛭子さんを知った人って、漫画を描いてること、あまり知らないでしょ。
蛭子:そうね、それは多分ありますね。
編集部:どうしてなんだろうね。
蛭子:それはテレビにいっぱい出ているからでしょ(笑)
編集部:反対でしょ。漫画があまり売れてないからじゃないの(笑)。
蛭子:ハッハッハッ、違うのっ。でもね、漫画家と思われようが思われまいが、そんなに重要なことじゃないんですよ。ただほら、人をどれだけ喜ばせるかにかかっているから、テレビに出ている俺を見て喜んでくれていたらそれでいいの。
編集部:じゃ、喜んでくれればどんなことでもするの?
蛭子:いや、限界はあるけれど、漫画家だってサービス業についている人だってなんらかの形で喜ばせる、っちゅうのがあるでしょ。あっ、俺さ、芸術って言葉よりサービス業っちゅう言葉が好きなんですよ。
編集部:ああ、そうかもしれないね。
蛭子:サービスする心を持っている人は、なにをやっても楽しいんですよ。
編集部:まったくもう、涙がでちゃうよ。
蛭子:へっへへへ。でもみうらさんも描いてたじゃないですか。「オタクっぽい人はそういうサービス精神がないからつまらない」って。
編集部:ああ、インタビューでね。
蛭子:そうそう、だから考え方は同じよ。
編集部:根本さんも同じこといってたよ。
蛭子:そうそう、だからやっぱりどこか共通していると思いますよ。人にサービスしようっていう気持ちね。そのサービス精神があるっていういうことはすなわち私のいう芸術なんですよ、ヘッへへへへ。
編集部:ヘへへだって(笑)。だけど共通してるって言っても、笑わせるのと笑われるのでは、大違いだと思うんだけどなぁ絶対に(笑)。
蛭子:まっ、いいじゃないですか。これでうまくまとまりましたね(笑)
編集部:でも、そのサービス精神もこの頃じゃ、考えている以上にやらされていない?だって『スーパージョッキー』なんかじゃ扱いが松村邦洋と一緒になっているじゃない(大爆笑)。
蛭子:そうなんだよ(笑)。俺もそれは少し悲しくなってるんですよ。
編集部:最初は「司会やるんですよ」ってうれしそうにいってたのに、いつのまにかはずされていてさ(笑)。こないだなんか風邪の特効薬とかいって、鼻の穴にネギを突っ込まれてたよね(大爆笑)。
蛭子:そうそう、ハハハッ、なーさけないったらありゃしないっ!どうなってるか知らんけど、俺も不本意なんですけどね。
編集部:なんかテレビ局の人達も扱い方を心得てきたんじゃないの?少し前までは"蛭子先生"なんてよばれてたのにねぇ。もうそろそろテレビも考え方がよろしいんではないでしょうかね。
蛭子:うん、それは言えるかもしれませねぇ。でも漫画のファンはもともと少なかったし(笑)。
編集部:その少ないファンも逃げちゃうかもしれないよ。
蛭子:そんなことでさ、逃げていくファンは本物のファンじゃないよ(笑)。
編集部:言いましたね(笑)。