【作品解説】丸尾末広「芋虫」

芋虫

江戸川乱歩原作の「芋虫」を忠実に漫画化


概要


「芋虫」は、乱歩作品の中でも最大の問題作である「芋虫」を丸尾末広が漫画化した作品。シベリア出兵で四肢をなくして傷痍兵となった夫と介護する妻の時子の淫靡でおぞましい世界を描いている。原作のイメージがほぼ忠実に再現されており、丸尾末広ファンや乱歩ファンであれば購入してもがっかりすることはない。

丸尾版にはバナナプレイあり


丸尾版では追加要素もある。与謝野鉄幹夫婦の性生活から着想を得たもので、陰部に一晩入れておいたバナナを食べるという性行為である。1シーンだけではなく、物語の中盤はこのバナナの話が中心に展開されているため「黄色い肉塊」と「バナナ」をかけているのかもしれない。なお、バナナを切らすと夫は怒り、畳の上で跳ねたり飛んだりして暴れる。

乱歩版と丸尾版の時子の性格


また、丸尾版の時子の夫への暴力行為は、つい魔がさして目を傷つけてしまった過失的な要素が見られるが、原作の時子は

「このまったく無力な生きものを、相手の意にさからって責めさいなむことが、彼女にとっては、もうこの上もない愉悦とさえなっているのである」

「彼女は、夫をほんとうの生きた屍にしてしまいたかったのではないか」

と、時子に本来潜んでいた残虐性が表出してしまったことを強調しており、時子の性格に若干違いがあるように思える。

 

また原作版時子は

「彼女のデブデブと脂ぎったからだつき」

「私はまあ、どうしてこうも、まるでばかかなんぞのようにデブデブ肥え太るのだろう」

と肥満体であるように描かかれているが、丸尾版ではビジュアル的に美しくないためか、それほど脂ぎった体ではなくなっている。

翻訳され台湾で出版


なお、丸尾末広「芋虫」は2016年に中国語に翻訳され、台湾で出版された。台湾マンガシックでは、出版を記念した原画展、および丸尾末広のサイン会が開催された。