リュック・モンタニエ / Luc Montagnier
HIVを発見したノーベル医学生理学賞学者
概要
生年月日 | 1932年8月18日 |
死没月日 | 2022年2月8日 |
国籍 | フランス |
専門 | ウイルス学 |
業績 | HIVの発見 |
重症 |
ルイ=ジャンテ医学賞(1986年) 日本国際賞(1988年) ノーベル医学賞(2008年) |
リュック・モンタニエ(1932年8月18日生まれ)はフランスのウイルス学者。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見により、フランソワーズ・バレ・シヌッシ、ハラルド・ズル・ハウゼンと共同で2008年にノーベル医学・生理学賞を受賞。
パリのパスツール研究所の研究員、中国の上海交通大学の世人教授などを歴任。
モンタニエは、予防接種、ホメオパシー、COVID-19パンデミックにまつわる物議をかもす、仮説段階のさまざまな主張を発表してきた。
たとえば、フランス政府のワクチンプログラムに対する彼の批判は、科学界で広く反発を招いた。
2017年には、106人の学術科学者が「(教授に)注文をつける」公開書簡を書いた。手紙にはこう書かれていた。
「私たち医学界の学者は、同業者の一人がノーベル賞(の地位)を利用して、知識の分野外で危険な健康メッセージを広めていることを受け入れることができません」。
COVID-19発生初期にいち早く、武漢ウイルス研究所から流出した人工ウイルス説を発表して広い反発を招いた。最近では2021年5月初頭にCOVID-19ワクチンが新たな変異体を作り、また、抗体依存性増強(ADE)を誘発して接種曲線後に死亡曲線を作ると話して反発を招いている。
「2年以内に全員死ぬ」とモンタニエ博士は言っていない
トランプにおけるQアノンの存在と同様、モンタニエ博士にも博士の意図と異なる曲解や誤解する支持者、また一言も話していないこと(ワクチンを接種すると2年以内に死ぬ、火葬場の準備が必要だ)を「モンタニエが話した」として引用・拡散するカルト系ジャーナリストが多いのも反発を招く理由である。
この偽主張の元は、2021年5月23日にFacebookに投稿されたここで確認できる。
モンタニエは3回目接種後にエイズになると言っていない
モンタニエ死後直後から、複数のTwitterユーザーが、「3回目の接種を受けた人は、エイズの検査を受けてきてください。結果は、あなたを驚かせるかもしれません。そして、政府を訴えなさい」とモンタニエが話したとシェアしている。
モンタニエがこのような主張をした証拠はなく、また追加接種でHIVに感染するという証拠もない、と複数の専門家がPTIに語っている。
この偽主張の元は、2022年2月11日にFacebookのアメリカのバイカーのコミュニティで投稿された画像である。
COVID-19
人工ウイルス説
モンタニエは、COVID-19は実験室で作られた人工的なものであり、HIV/AIDSのワクチンを作ろうとしていたのではないかと主張している。
モンタニエによると、コロナウイルスのゲノムにHIVやマラリアの病原菌の要素が含まれており、これのことが非常に疑わしく、自然に生じたものではないと推測している。
当初、免疫学者であり、COVID-19パンデミックに関してフランス政府に助言を行う科学会議の責任者であるジャン・フランソワ・デルフライシーは、モンタニエの主張を「実際の科学とは関係のない陰謀論」と非難していた。
しかし、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、2021年5月11日、COVID-19パンデミックが自然発生したものであるとはもはや確信していないと認めた。
2020年7月に『COVID-19、SARSおよびBATSコロナウイルスゲノム特異な相同RNA配列』という題で改めて、コロナウイルスにHIVの存在を示す論文を発表した。
反ワクチン運動
モンタニエ博士は、COVID-19のワクチン接種について反対している。
2021年5月初め、モンタニエは「ワクチンが変異体を生み出す」と主張し、コロナウイルスのワクチン接種による集団免疫について「あってはならない誤り」と言及した。
ワクチンによって作られた抗体が存在すると、ウイルスは「別の解決策を見つける」か「死ぬ」かを迫られる。ここで変異体が作られてしまうのです。ワクチン接種によって変異体が生み出す結果になるという。
ワクチンの抗体依存性増強(ADE)に言及し、「ワクチン接種の曲線の後に続く死亡の曲線」が「各国」で起きていると説明している。
また、ワクチンに注入されているmRNAは、神経変性疾患を患う可能性があるという。コロナウイルスのRNAには、プリオン配列に似た配列があり、このプリオンが、脳内の自然なタンパク質を乱し、プリオンを作るように改変することを懸念している。また、mRNAワクチンは未来の世代にも影響を与える可能性があるという。
医療独裁政権の前兆
モンタニエは、コロナウイルスに対するロックダウンやワクチン接種による「医療独裁政権」の誕生を懸念している。
第一の理由は、実際に人工的に作られたウイルスであること、次にほかの治療方法があるにも関わらずその唯一の治療としてワクチンを提案し、搾取していることである。これは科学的な問題ではなく利益問題であるという。
ワクチンが有効ではないということ、ウイルスの感染を防がないことはわかっており、重症化を防ぐと言われているがこれも疑わしい。なのに、われわれはこの企てに同意されたこのシステムに、多くが反対しているにも関わらず、適応しなければならない状態に陥っている。
HIV発見の歴史
1982年、パリのビシャ病院の臨床医ウィリー・ローゼンバウムは、謎の新症候群エイズ(当時は「ゲイ関連免疫不全症」(GRID)と呼ばれていた)の原因究明のためにモンタニエに協力を求めた。
ローバンゼウムは科学学会で、この病気の原因はレトロウイルスではないかと提案していた。モンタニエをはじめとするパスツール研究所のメンバー(フランソワーズ・バレ・シヌッシ、ジャン・クロード・シェルマンなど)は、レトロウイルスに関する豊富な経験を持っていた。
モンタニエらは、ローゼンバウムのエイズ患者から採取したサンプルを調べ、リンパ節の生検で後にHIVと呼ばれるようになるウイルスを発見した。彼らはこのウイルスを「リンパ節腫脹関連ウイルス」(LAV)と名づけたが、これは当時、このHIVがエイズの原因であることがまだ明確でなかったためである。そして、1983年5月20日、『サイエンス』誌に正式に発表された。
一方、米国のロバート・ギャロ率いるチームがモンタニエと同様の調査結果を『サイエンス』誌の同じ号に発表し、後にHIVウイルスの発見を確認し、エイズの原因となる証拠を提示した。ギャロはこのウイルスを「ヒトTリンパ球向性ウイルスIII型」(HTLV-III)と名付けた。これは、彼の研究室ですでに発見されていたHTLV-IおよびIIとの類似性を考慮して名付けられたものである。
HIVを最初に分離したのはモンタニエのグループかギャロのグループなのかは、発見のタイミングが異なるため、長年にわたって論争の対象となっていた。
HIVは変異が激しいため、通常、HIV分離株は高度な変動性を持っている。それに比べて、最初に分離された2つのヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)である「Lai/LAV」(旧LAV、パスツール研究所で分離)と「Lai/IIIB」(旧HTLV-IIIB、国立がん研究所腫瘍細胞生物学研究所(LTCB)のプール培養から分離)は、配列が驚くほど似ていたことから、この2つの分離株は実際には同じものであるか、少なくとも共通のソースを持っていることが示唆された。
1990年11月、アメリカ国立衛生研究所の米国研究公正局は、ロシュ社のグループに、1983年から1985年にかけてパスツール研究所と国立がん研究所のLTCB(Laboratory of Tumor Cell Biology)に保管されていたサンプルの分析を依頼し、この問題の解明を試みた。
アメリカの疫学者Sheng-Yung Changが率いるグループは、保存されている標本を調査し、1993年に『Nature』誌で、アメリカの標本は実際にはフランスの研究所(モンタニエ)から来たものであると結論づけた。
チャンは、フランスのグループのLAVは、ある患者のウイルスが別の患者からの培養を混入したものだと判断した。依頼を受けたモンタニエのグループは、2つのウイルスが含まれていることを知らずに、この培養液のサンプルをギャロに送った。それが、ガロが研究して貯蔵していた培養液を汚染してしまったのだ。
1993年にチャンの研究結果が発表される前に、ギャロの研究室は、パスツール研究所で製造されたHIVサンプルを不正に使用したとして、1991年にOffice of Scientific Integrity(科学的誠実さのためのオフィス)から、そして1992年に新しく設立されたOffice of Research Integrity(研究誠実さのためのオフィス)から告発され、最初は「軽微な不正行為」で有罪とされた。
その後、1993年にチャンの調査結果が発表され、ギャロの研究室の容疑は晴れた。しかし、ギャロの評判はすでに悪化していた。
今日では、モンタニエのグループが最初にHIVを分離したということで一致しているが、エイズの原因となるウイルスを発見したのはギャロのグループであり、その発見を可能にした科学の多くを生み出したのはギャロの研究室が以前に開発した実験室でT細胞を培養する技術であるとされている。
モンタニエのグループは、発見を発表した当初、エイズの原因におけるHIVの役割は「まだ解明されていない」と述べていた。
ウイルスの真の発見者がフランス人かアメリカ人かという問題は、単なる威信の問題ではなかった。ギャロがウイルスを特定したという事実に基づいて、米国保健社会福祉省が申請したエイズ検査に関する米国政府の特許が、危機に瀕していた。
1987年、両政府は、モンタニエとガロを共同発見者とし、発見の名声と特許料を折半することで、論争の終結を図った。その後、1987年まで2人の科学者はお互いの主張を主張し続けた。
フランスのミッテラン大統領とアメリカのロナルド・レーガン大統領が直接会って、大きな問題が解決された。1986年には、フランスとアメリカの名称(LAVとHTLV-III)が廃止され、ヒト免疫不全ウイルス(virus de l'immunodéficience humaine、略称HIVまたはVIH)という新しい用語が使われるようになった(Coffin, 1986)。
ガロが発見したHIV-1 Lai/IIIB株の起源は、モンタニエが発見したHIV-1 Lai/IIIB株と同じであると結論づけた(ただし、モンタニエはHIVがAIDSを引き起こすことを知らなかった)。
この妥協案により、モンタニエとギャロは確執を解消し、再び協力し合って年表を書き、その年の『ネイチャー』に掲載された。
2002年11月29日付の『サイエンス』で、ギャロと門帯には、HIVの発見にそれぞれが果たした極めて重要な役割を認める一連の論文を発表した(そのうちの1つは両氏の共著)。
受賞歴
2008年のノーベル医学生理学賞は、HIVを発見したモンタニエとフランソワーズ・バレ・シヌッシに授与された。この賞は,ヒト乳頭腫ウイルスが子宮頸がんを引き起こすことを発見したハラルド・ズル・ハウゼンと共同で受賞した。
しかし、モンタニエは、ロバート・ギャロがノーベル委員会に認められなかったことに「驚き」を隠せなかった。「エイズの原因がHIVである」ことを証明することが重要で、ギャロはそのために非常に重要な役割を果たしていた。HIVを発見したのはモンタニエだが、それがエイズを引き起こす原因である証拠を提示していないモンタニエはロバート・ギャロには大変申し訳なく思っていた。
ノーベル会議のメンバーであるマリア・マスッチによれば、「誰が基本的な発見をしたかは疑う余地がなかった」という。
モンタニエは、世界エイズ研究・予防財団の共同設立者であり、国際ウイルスコラボレーションプログラムの共同ディレクターを務めています。また、ヒューストンにある世界医学研究予防財団の創設者であり、元会長でもあります。
モンタニエは国家功労勲章(コマンダー、1986年)、レジオンドヌール勲章(ナイト:1984年、オフィサー:1990年、コマンダー:1993年、グランドオフィサー:2009年)など、20以上の主要な賞を受賞している。
また、ラスカー賞およびシェール賞(1986年)、ルイ・ジャンテ医学賞(1986年)、ガードナー賞(1987年)、アメリカン・アカデミー・オブ・アチーブメントのゴールデンプレート賞(1987年)、キング・ファイサル国際賞(1993年)(「アラブのノーベル賞」として知られる)、アストゥリアス皇太子賞(2000年)などを受賞している。また、国立医学アカデミーの会員でもある。
モンタニエは、2010年にウィッティア大学から名誉ヒューメインレター博士号(L.H.D.)を授与された。
物議を醸した研究
細菌やウイルスを希釈したDNAは電磁波を発してる
2009年、モンタニエは2つの物議を醸すインディペンデントの研究を発表した。そのうちの1つは『細菌のDNA配列から作られた水性ナノ構造体による電磁波の生成』というタイトルだった。
シドニー大学のジェフ・ライマーズは、この研究の結論が真実であれば「過去90年間に行われた最も重要な実験となり、現代化学の概念的枠組み全体の再評価が求められる」と述べている。
論文では、「病原性細菌やウイルスを希釈したDNAは、特定の電磁波を発している」「この電磁波は病原体を再現できる可能性のある溶液中の『ナノ構造』と関連している」と結論づけている。
これらの論文は、モンタニエが編集委員長を務める新雑誌に掲載されたもので、真偽のほどはわからないが、撹拌と高希釈で調製された水に含まれる細菌のDNA(M. pirumとE. coli)から電磁信号が発信されているのを突き止めたという。
また、同様の研究として抗レトロウイルス療法で治療されたエイズ患者の血液中のHIV/RNAの電磁波の検出も行っている。HIV感染で抗レトロウイルス治療を受けている患者の血液中のウイルス量が検出限界以下でも、この電磁波補足技術を使えばHIVのDNAを検出でき、またHIV感染撲滅を目指す新しい治療開発への道を拓くものであるという。
ホメオパシー支持者たちの勝手な称賛
2010年6月28日、モンタニエはドイツで開催されたリンダウ・ノーベル賞受賞者会議で講演した。ここでは、60人のノーベル賞受賞者と700人の科学者が集まり、医学、化学、物理学における最新のブレークスルーについて議論が行われた。
ここでモンタニエは、「ホメオパシーの基本的な思考とかなり似たウイルス感染の新しい検出方法を発表して、同僚たちを驚かせた」という。
ホメオパシーをインチキだと考えているほかのノーベル賞受賞者の仲間たちは首をかしげていたが、モンタニエの発表は、より科学的な根拠を求めていたホメオパス信者たちに歓迎された。
英国ホメオパシー協会のクリスタル・サムナーは、「モンタニエの研究がホメオパシーに『真の科学的倫理』を与えた」と述べている。
この論文は、査読が行われておらず、モンタニエの主張は現代の主流の物理学や化学の常識では根拠のないものだと厳しい批判を受けている。また、2015年3月現在、第三者による再現は行われていない。
モンタニエの主張に対する一般的な反応は芳しくないものだが、その理由としてブロガーのアンディ・ルイスは、彼の論文は「重要な実験ステップが一文で、見切り発車的に記述されており、作業の詳細がほとんど記されていない」と述べている。
また、ホメオパスはモンタニエの研究をホメオパシーの裏付けとして評価しているが、多くの科学者はホメオパス軽蔑し、厳しく批判している。モンタニエの研究は高濃度の希釈液を使用しており、ホメオパシーに関する言及をしていないにも関わらず、ホメオパスはそれがホメオパシーを支持していると主張しているためである。
2009年9月14日、ルイーズ・マクリーンが「ホメオパシー・ワールド・コミュニティ」のウェブサイトに次のような文章を投稿した。「リュック・モンタニエはホメオパシーの働きを証明した」。
また、2009年10月6日には、ホメオパシーの推進者であるダナ・ウルマンが、ホメオパシーへの批判に対して、次のように書いている。「そして、皆さんは、ノーベル賞を受賞したウイルス学者であるリュック・モンタニエによる、ホメオパシーを大きくサポートする新しい研究をご覧になったことと思います」
2011年1月30日、ウルマンは、2010年12月24日に行われた『Science』誌のインタビューでのモンタニエの「ホメオパシー」と「高濃度希釈」に対して『ノーベル賞受賞者のリュック・モンタニエはホメオパシーを真剣に取り組んでいる」という記事を投稿した。この記事では、モンタニエの研究がホメオパシーを支持しているという主張を繰り返している。
ホメオパシー支持者やコロナ陰謀論者たちの引用への反論
その後、ホメオパスの主張に対する批判が相次いだ。
2010年10月20日、ハリエット・A・ホールは、ホメオパスの主張に具体的に答えた。「Nope. ごめんね、みんな。そうではありません。それどころか、モンタニエの研究結果はホメオパシーの理論とは矛盾しています。モンタニエの研究がホメオパシーを支持していると信じているホメオパスは、巨大な自己欺瞞を示しているに過ぎない」
彼女はさらに研究を分析し、いくつかの欠陥を指摘し、次のように述べている。「結果が妥当であると仮定したとしても、ホメオパシーを支持するのではなく、ホメオパシーを否定する内容になるでしょう。なぜならホメオパシーは、生体内での臨床試験によってのみ検証される臨床治療のシステムだからだ」。
このようなモンタニエの研究と彼の支持者のモンタニエ博士に対する誤解は、新型コロナウイルスのワクチン問題についても起きている。
モンタニエのワクチンやADE関する実際のコメントは、反ワクチン派や陰謀論ジャーナリスが引用して伝える内容とかなり異なる。たとえば、「ワクチンを打つと2年以内に死ぬ。できるのは火葬場の準備をしておくことぐらいだ」など発言していないことは、何度もファクトチェックされている。
モンタニエ博士自身が、「ワクチンで全員が死ぬ」とは言っていないとインタビューで弁明している。
「もちろんです。私たちは未知の領域にいるのに、ワクチンの接種を全員に義務付けようとしています。こんなことは狂気の沙汰です。キチガイじみたワクチン接種を私は絶対に非難します。ついでに言っておくと、私は決して、「ワクチンで全員が死ぬ」とは言っておらず、「ワクチンを打った人のうち、ある一定数の人が苦しむ」と言っているのです。こんなこと許されるべきことではありません。」
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— 石納 (@80syaku) September 18, 2021
【コロナワクチン】モンタニエ博士は子供のワクチン接種に反対のようです pic.twitter.com/ioRGOYq3UP