丸尾末広インタビュー2
盗み癖
-上京して何処に住んだんですか。
丸尾:凸版製本に勤めたから、最初は板橋の寮に入っていた。確か花輪さんは赤羽の大日本製本だったんだよね(笑)。三年いたって言ってたよ。でも俺は二年(笑)。15から17までね。凸版のなかで「週刊明星」とか「漫画アクション」の製本をやっていたんだよ。でも途中で寮を出て板橋の志村坂上に初めて部屋を借りた。四畳半で五千円だったね。ボロいアパートでさ共同の台所にナメクジが這っているんだよね。蛇口のあたりをヌメヌメと這っているの(笑)。
-で、凸版はどうしてやめたんですか?
丸尾:それがまた一週間無断欠勤しちゃって(笑)。それでもういいや、やめよう、ってなったわけ。会社の人は喜んでたけどね(笑)
-いつも思いのもままですね(笑)。
丸尾:そうそう。それで、やめてからメチャクチャになったんだけどね。
-それじゃ、そのメチャクチャなところを・・・。
丸尾:働かない、何もしない、金もない、だね(笑)。たまにアルバイトして金ができると引越ししてた(笑)。
-万引きはそのころからしてた?
丸尾:うん、してたね(笑)。最初本を盗んだんだよね。それからやたらと盗むようになったの(笑)。あのね、俺、篠原勝之さんと同じ本を同じ店から万引きしてたんだよね。高畠華宵の限定画集で3万円のやつ(笑)。篠原さんは毎日行っては少しづつ位置をずらしておいて取ったってテレビで堂々と話してた(笑)。俺はさ、ガラスケースさわったら開いちゃったんで、ダンボールの箱はそこにおいたまま、中身だけもってきたの。(笑)。
-持ってきたって、剥き出しで?
丸尾:変に隠すと怪しまれるから。そんなもんだよ(笑)。で、喫茶店に入ってさ、ウットリと眺めていた(笑)。「ワッ、すごいっ」てさ(大爆笑)。
-親は知っているんですか、そういうことやっていたのを。
丸尾:知ってるでしょ。だって家にいるときも親の金とってたから(笑)30円くらいなのにさ、そんなことで大騒ぎするんだからやだよねえ(大爆笑)。小遣いくれないから盗むのにねえ(笑)
-以前、青林堂で箱根に行って、土産屋をのぞいていたとき「こういう時だからやめてよね」って言ったらもうすでに袖にジャラジャラ入っていた、っていうこともありましたよね。
丸尾:あっ、あったねえ(笑)
-それで、大きな猫の置物見て「これは袖に入らないからだめだ」っていってたでしょ。
丸尾:そうそう、そんなことあったね、忘れてた(大爆笑)
-で、そのころは漫画は描いていなかったんですか?
丸尾:「描こう描こう」と思いながら全然描かなくてさ、何も目的もなくただブラブラしていただけだよ。描き始まったのは19くらいからかな。一度ガロに持ち込みしたことあったよ。あの階段を昇るとき、もうドキドキしちゃって(笑)。
-何ていうタイトルでした?
丸尾:「卍仮面」だった(笑)。長井さんが見て「これは面白くないね」って。たしか南さんが紅茶を入れてくれたっけ。その頃南さんがまだ髪の毛が長くてニヒルなインテリ青年みたいにしてたよ。
-で、それは持ってるんですか。
丸尾:捨てちゃった。
-サッパリしてるね(笑)。スリのおじさんと出会ったのはそのころですか?
丸尾:そうだね、19の時だったね、おじさんがスリを働いているところを目撃したら、あっちから声をかけてきて、「一緒にやらないか」って言われたの。そのときたまたま知り合った漫画家志望のやつが一緒にいて、そいつ住所不定だったから先に知り合いだったんで紹介されたかたちでね。それで3人で一ヶ月くらい一緒に行動していたよ。赤羽あたりでやってた(笑)。
-見張り役とかやってたんですか?
丸尾:そうそう。やり方なんでかなり大雑把でさ、荷物からちょっと離れたスキにパッと捕るだけなんだよね。人が考えるほど高等なテクニックじゃない。あれなら俺でもできると思ったけど、やっぱりできないんだよね。それにただの見張り役だったから、ご飯をおごってくれるだけで、金はもらってなかったよ(笑)。