【インタビュー】ねこぢる&山野一インタビュー1「創作における二人の役割」

ねこぢる&山野一インタビュー1

『ガロ』で好評連載だった「ねこぢるうどん」。作者であるねこぢること前山野夫人と山野一氏のインタビュー。山野氏の「ねこぢるうどん」への関わり方や発想の源、そして山野漫画の基盤を語る。

創作における二人の役割


(出典元:ガロ1992年 6月号)

 -『ねこぢるうどん』を始めたきっかけというのは。

 

山野:僕の漫画の手伝いをやりたいと、いつもねこぢるが言っていたんですが、絵のタッチが全然違うんで、絵に合ったストーリーを創ったんです。

 

-では、山野一で描いている漫画と『ねこぢるうどん』の原作は、別個の物として考えているんですか。

 

山野:『ねこぢるうどん』はもう完璧にねこぢるの物だから、気に入らないと言われればネームを書き直したりしています。絵は何とか描けるんですが、漫画の形に体裁を整える作業が出来ないんで、僕が手伝っているようなものです。

 

-構成を山野さんが。

 

山野:(ねこぢるは)コマ割りとかが、苦手なんです。元々紙にイタズラ描きをしていた様なものだから。たまに僕の考えも入ったりする事もありますが、これならいいという物であれば入れてます、ダメな物もの結構多いけど(笑)。"ねこさいばんの巻"は、僕の原作なんですが、嫌われてますね(笑)。

 

ねこぢる:ネコだけでも充分幼稚なのに、その上虫まで出てくると、幼稚すぎる感じがしたから(笑)。

 

-主人公がネコというのは?

 

山野:ネコしか描けないんだよね(笑)。元々イタズラ描きで描いていたのがネコなんですよ。だから理由とか、意味なんてないんです。

 

-では、人物等は山野さんが描かれているのですか?

 

山野:キャラクター、背景等のデザインで、若干アドバイスすることはありますが、実際に描くのは彼女です。

 

-"ねこぢる"というペンネームには、何か由来があるのですか。

 

ねこぢる:昔二人で汁っていう言葉はキタナイなんて冗談で言っているうちに、自然に生まれたんです。

 

山野:"犬汁"とかね。オレンジジュースって言うときれいだけど、"オレンジ汁"っていうとキタナイ感じでしょ(笑)。

 

-一番気にいっている作品はなんですか。

 

ねこぢる:"大魔道士の巻"です。これは自分から魔術師が出てくる話を創って欲しいと頼んだくらいで。

 

山野:結末は、家も家族も捨ててサーカスに付いて何処かに行っちゃう方がいいと言われてたんですが、そうすると次の話が創れなくなってしまうんで(笑)、家族の元に留まらせました。

 

-"山のかみさまの巻"にも、ドーガ様の様なキャラクターが出てきますね。

 

山野:全く同じ顔で衣装だけ違うんですけど(笑)、これも魔術師というか、超能力者が出てくる話を創ってくれというリクエストがあったもので。

 

ねこぢる:"大魔道士ドーガ"というキャラクターは、『ファイナル・ファンタジー3』だったかな、それのものが出てくるゲームがあるんです。下僕の様なネコちゃん達を従えていて、カッコいいんですよ(笑)。

 

山野:僕はやってないからわからないんですが、彼女はゲームに入り込むとボロボロ泣いたりしますよ(笑)。ファミコンのロールプレイングのゲームが好きで、それに入っちゃうと、中々仕事をやってくれないんです(笑)。一日20時間くらいやってても平気で、ゲームの世界に生まれれば良かったなんて言ってるくらいなんです。

 

ねこぢる:『ファイナル〜』とは別のゲームなんですが、自分のために命を捧げてくれるというのに凄く感動しちゃって、知らないうちに涙が出てきた。

 

山野:でもゲームソフトが子どもに及ぼす影響は漫画の比ではないですね、多分。表面上は勇気だとか冒険だとかうたってますが、あんな有害な物はないと思いますね(笑)。人間をトリコにするだけの魅力を持ってますから。

 

-自分たちの漫画をゲームにできたらなんて思いますか。

 

山野:大変そうだけど、面白そうですね。世界そのものを創れますからね。こぢんまりとした世界の雛形かもしれませんが。ゲームをやっていると、ゲームと現実世界を重ねちゃうところがありますよね。ゲームの中のキャラクターが、そのプログラマーを知ることが絶対不可能な様に、現実の世界で動かされている我々人間がこの世界そのものをプログラムした創造主というか、神の様な者を認知することが不可能であるみたいな、そんな馬鹿な事を考え出しちゃうんですよ。

 

-漫画も紙の上で創造主になれますよね。

 

ねこぢる:自分はユーザー的な立場で見ているのが楽しいんだと思う。

 

-以前、ねこぢるさんの見たが題材になっている話もあるとお聞きしましたが、夢の話はよく使われるんですか。

 

山野:漫画のすべてではないけど、何本か混じってます。とりとめのない話を、後ろで話してたりするのを書き留めて、漫画にしたりすることもあります。

 

-日常話している中で、何か面白い事があるとメモして置くんですか。

 

山野:そうですね、見た夢の事とかよく話しますが、夢ってどんどん流れていくから首尾一貫してないでしょ。そのままだと余りにも散漫になるので、漫画の形に多少は脚色してますけど、訳のわからないイメージみたいな物を無理やり漫画にしたこともあります。

 

-夢以外に作品の題材となっているものはありますか。

 

山野:大体、描き始める一時間位前に話を創るんですよ。だからそのとき偶然思いついたことをパッと描いてしまうんで、根がどこだったかなんて、ハッキリしない事が多いですね。

 

-では、潜在意識が描かせているようなところがあるんでしょうか。夢ってそういうものなんですよね、『ねこぢるうどん』を読むと、悪い夢を見ていて、ハッと目覚めたような気持ちになることがありますけど。

 

山野:そんな上等なものじゃないですね(笑)。バタバタした中で描いてますから首尾一貫してないことが多いんでしょう。

 

-漫画の中で、ネコ姉弟の子どもらしさがリアルに描かれていると思うのですが、実際に子どものころの体験などが、題材になっていたりするんですか。

 

山野:ソーセージの話(かわらの子の巻)は、そうだよね。

 

ねこぢる:幼稚園のとき、親戚の家に遊びに行ったら、その家の前に住んでいるビンボー臭い子どもが(笑)「一緒に遊んでくれたら、ソーセージあげる」って言ったんです。自分はそれまで真っ赤なソーセージを見たことも食べたこともなくて、なんだかよくわからないけどもらおうとしたら、いとこに「そういう物は、食べると体に毒だから。」って止められました。